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現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

 

駕籠が出発しようとしたところで、近くの茶屋の主人が出てきて駕籠かきに声をかける。

 

茶屋「おーい駕籠やさん、ちょっと伝言を頼むよ」

駕籠前「はいはい、どちらまで?」

茶屋「梅沢の佐渡屋さんにさ、こないだ卸してもらった酒のことでお願いして欲しいんだ。水の配合のバランスが悪いと、もう少し酒の割合を増やしてくれって。頼むよ」

 

この頃は酒を水で薄めて飲むのが一般的だったのである。ある程度までは薄めても味に変化がないということで、酒造→問屋→小売 といくほど水の量が増え、最終的にアルコール度数4~5%のビール並みの薄い酒をガブガブ飲むのが普通だった。

 

駕籠前「あいよ。クレームっすね」

茶屋「ちょっと薄すぎるんだよねあれじゃ。そう思うだろ?」

駕籠後「さっき飲んだけど、確かに水と変わらんな」

茶屋「じゃ、よろしく頼むよ」

駕籠「あいあいさー。出発ー。えっほ、えっほ」

 

弥次「なぁ、駕籠やさんは藤沢の人か? あの宿場もずいぶんきれいになったもんだなあ」

駕籠前「ありがとうございますっ」

弥次「問屋で事務をやってる太郎左衛門さんはお元気か」

駕籠前「お客さんよくご存知ですね。お元気ですよ」

弥次「孫七さんはまだあそこに勤めておられるのか」

駕籠前「はい。ずいぶんお詳しいっすね」

 

駕籠後「おい、よく知ってるはずだ。駕籠の中で乗務記録を読んでいらっしゃるわ。ははは」