detail

現代語訳 旅行用心集 @yajikita_douchu

 

弥次「その橋の向こうに鳥居があるから、そこをまっすぐに行っ」

喜多「曲がると田んぼに落っこちるから気をつけてくださいねー♪」

弥次「おまえは黙ってろ。その道をずっと行くと村はずれに茶屋が2軒あるから、」

喜多「そう、その茶屋はよく腐ったものが出てくるんだよなー」

弥次「それは右手にある方の茶屋だろ、左側の店はなかなかいいぞ。去年俺が行ったときなんて、ピチピチの鯛に、手のひらほどもある大きなエビに、卵に慈姑に大椎茸に、それから」

おじさん「いや、私はそんなものは食べなくていいです。そこからどう行きます?」

 

弥次「そこをずっと行って突き当たると石の地蔵様がありますんで、そこを」

喜多「あの地蔵様は皮膚の病気にいいらしい。俺が前に付き合ってた女はあいつで治った」

弥次「皮膚病といや、新道の金箔屋の狸吉は確か草津温泉へ湯治に行ったんだよな。あれからどうしてるんだろ」

喜多「あいつは結婚して大福町に住んでるよ」

弥次「大福町ってどこだっけ」

喜多「うちの前の道をまっすぐ当座町へ出て、判取町から店賃町を通って、地代屋敷の算盤橋を渡ったところが大福町だ」

おじさん「あの…江の島…」

 

弥次「おぉそうだった。その地蔵様から大福町をまっすぐに行くと、」

おじさん江の島へ行くのもそんな町があるのですか」

 

弥次「いや、大福町は江戸だよ」

おじさん「ああもう結構。江戸のことなど聞いてません。あっちの人に聞きます」

 

ぶつぶつ小言を言いながら行ってしまった。

喜多「あ、行っちゃった」

弥次「お前が口を挟むからだ」